関西3地域グループ合同例会「大学図書館の資料保存:体制の構築と継続」報告

3月2日に大阪市の難波市民学習センターにて関西3地域グループ合同例会「大学図書館の資料保存:体制の構築と継続」を開催しました。

 

講演1 藤井亜希子氏(和歌山大学図書館)「資料被害とその対策―シバンムシ、カビ、マイクロフィルム劣化―」
講演2 由利江里子氏(大阪大学大学院理学研究科数学専攻図書室)「西洋古典資料保存の第一歩」
講演3 図書館資料保存ワークショップ「資料保存・修復のいまとこれから」
    1. 山崎千恵氏(京都大学)「京大での資料保存ワークショップの取り組み―書庫環境整備から遡及入力、デジタルアーカイブまで」
    2. 永田千晃氏(京都大学)「資料保存ワークショップから資料保存ネットワークへ」
    3. 八木澤ちひろ氏(京都大学)「一般書の資料修理にあたって―修理本の具体例紹介」

合同例会は毎年京都・大阪・兵庫の3地域グループが共同で開催しています。2年前は兵庫地域グループさんの主担当でオープンアクセスを主題に、昨年は京都地域グループさんの主担当で図書館システムを主題に開催されました。

小村地域グループ長からの開会挨拶の後、最初に藤井氏からシバンムシやカビによる被害の実情や対処方法を具体的に紹介頂きました。
数年間にわたって資料被害への対策に取り組んだ御自身の経験に基づき、長期的な対処計画からカビのふき取り方、マイクロフィルムの劣化具合の判定に用いる機器まで、多くの情報が盛り込まれた御講演でした。
藤井氏御自身も被害に接してから専門家の助言なども含め資料保存について様々な情報を取り入れてこられたそうで、業務上の課題に対応する為に広く情報を収集し深く学ぶという姿勢そのものが印象的でした。

 

 次に由利氏からは西洋古典資料の資料保存に関して御話頂きました。
表紙の材質などの形態面での特色から、資料保存の為に1冊ごとの劣化状況を調査しカルテという形で記録する方法まで、西洋古典資料を取り扱う方法を御紹介頂きました。
大量の図書資料を扱っている普段の業務では逆に意識することの少ない、図書の形その物や個々の資料の状態といった点について捉え直す機会となりました。

 

最後に図書館資料保存ワークショップの3名のメンバーの皆様から、資料保存に関する活動や図書の修理技術などについて御講演頂きました。
山崎氏と永田氏には京都大学の図書館員などによって行われてきた、これまでの図書館資料保存ワークショップの歩みを振り返って頂きました。
資料保存が様々な図書館業務と結びついた課題であること、図書の修理方法や修理用の素材についての悩みは多くの図書館員が有しており、そういった悩みを共有しつつ資料保存に取り組む活動が展開されてきたことなどを知ることが出来ました。
異動などで参加者がなかなか集まらない時期もあったそうですが、より広い層に参加を促すように見学会や読書会などの新しい試みを実施したり、デジタルアーカイブのような新たな課題と資料保存を結び付けて考えたりといった積極的な姿勢が印象に残りました。

八木澤氏には、図書の修理方法について御紹介頂きました。
図書館資料保存ワークショップの活動内容がまとめられたウェブサイト(https://letterpresslabo.com/author/kulpcws/ )も御紹介頂きながら、背表紙の外れなどの破損が発生した際への対処方法などを御話頂きました。
西洋古典資料についても感じたように、普段余り意識出来ていない図書の材質について改めて知ることが出来る有難い機会となりました。
また休憩時間には、図書館資料保存ワークショップで実際に用いている修理関係の機器などを机に展示して頂きました。

 

各講演の終了後に質問時間を設け質疑応答を、全講演の終了後にはパネルディスカッションを行いました。

西洋古典資料についての個別のカルテを電子公開するなどして、個々の西洋古典資料の状態に関する情報もウェブで共有出来ないかといったデジタルアーカイブを見据えた議論もありました。
また講演も含めて、一橋大学社会科学古典資料センターで開催されている研修の紹介もあり、専門機関による研修が知識の取得や担当者同士のネットワーク作りに果たしている役割を改めて認識することが出来ました。

最後に森藤兵庫地域グループ長から、今年の夏に予定されている全国大会に関するアピールが行われ、閉会となりました。

講演と議論を通じて、大学図書館員が資料保存についてどのような役割を担っていくべきかという点について、改めて考え直す機会となったように思います。