8月例会「大学図書館などでの新型コロナ対応情報交換会②電子ブックを中心に(オンラインミーティング)」開催報告

8月29日に8月例会として、コロナ禍における大学図書館の対応についての情報交換会をオンラインで開催しました。

5月例会に続く第2弾となった今回のテーマは、電子ブックの利活用です。

 

新型コロナウイルス感染症対策として、多くの大学でキャンパスへの立ち入り制限が行われる中、遠隔で図書館資料を提供するための方法として、郵送貸出・複写物送付サービスと並んで、電子ブックの購入・提供があります。

 

当日は、日本各地から国公私立・館種の異なる14人の方にご参加いただき、電子ブックの提供状況、コロナ禍における需要の変化と対応、課題と感じていることなどについて話し合いました。

 

当日話題になったトピックをご紹介します。

 

○提供できない(図書館向けに販売がない)電子ブックについて

・コロナ禍の中、来館せずに使える電子ブックへのニーズが高まる一方、電子ブックは個人向けと図書館向けとで販売されるラインナップや価格設定が異なり、図書館が購入したいと希望する資料が電子ブックでは手に入らなかったり、予算の都合であきらめざるを得なかったりするケースがしばしばある。

・ある大学では、教員向けに遠隔授業で必要な電子ブックの希望調査を行ったところ、希望のあったタイトルのうち図書館向けの販売があったのは50%ほどにとどまった。

・その一方で、所属教員である著者を通じて出版社へ要望した結果、1か月ほどで図書館向けへの販売に至った事例が紹介された。

・図書館向けに販売され、同じプラットフォーム提供されている電子ブックでも、タイトルや出版社によって印刷・ダウンロードできないものが混在していて、利用者への案内がしづらいことが課題との指摘もあった。

 

OPACで電子ブックを検索できるようにする方法について

・電子ブックを購入すると、購入した資料のMARCデータを無償で提供してもらえることが多くあり(「出版社MARC」)、自館のOPACにデータを取り込んで活用している大学図書館が多くある。

・図書館側の業務コストが軽減されるため、出版社MARCは非常にありがたい存在だが、一方で、分類情報やヨミが無いものがあるなど、図書館がこれまで作成している書誌データのレベルに達していないものもあるのが課題。

・出版社MARCを自館のOPACに取り込む前に修正を加えているかどうかという点など、取り込み方について質問があった。出版社MARCの修正を行っているかどうかについては、品質向上の意味で修正を加えているのは1館にとどまり、後は取り込み時にシステムでチェックした結果のエラーにのみ対応している館があった。OPACへのデータ取り込みについては、出版社MARCではなくリンクリゾルバのナレッジベースデータをOPACに取り込んでいる例、両方を取り込んでいるが例が紹介された。

・電子ブックを所蔵データとして管理する方法、電子ブックの経理処理(資産とするか費用処理するか)にも話題が及んだ。

 

○学外からの電子ブックの利用方法について

・コロナ禍で自宅などから電子ブックを利用する学生・教職員が増える中、学外から電子ブック・その他電子リソースにアクセスする方法をどれだけ知って理解してもらえているか、ということが指摘された。

・Webサイトなどでの広報を強化している図書館も多くある一方、案内を見ながら自力で接続するのが難しい利用者が少なからずいること、電話やメールなどでの個別サポートが欠かせない状況が多くの館で共通していた。

・学外から電子ブックにアクセスするための技術やサービスとして、VPN接続、学認、リモートアクセスツール(EZproxy、RemoteXsなど)、その他のプラグインシステムについて、何を採用しているか、その使い勝手について感想を交換し合った。リモートアクセスツールの便利さが紹介される一方、価格が高く、大学によっては予算の面で導入が難しいとの意見もあった。

 

○電子ブックの購入選定について

・冊子体と電子体とで、どちらを優先的に購入するか、組織としての方針をはっきりと定めている事例は参加者の所属館の中では無かった。

・大まかな方針として、参考図書は電子ブックを優先している館、シラバス掲載図書は電子ブックで購入することにしている館があった。

・通年では購入せず、年度末の予算に残額があった場合に購入している、という館もあった。

・冊子体と電子ブックとの重複所蔵については、不問としている館が多かった。

 

○コロナ禍における電子ブック利用数の伸び率について

・コロナ禍において多く電子リソース提供元において同時接続数・学外利用制限の大幅に緩和や多数のタイトルの無償提供が行われたため、平常時との単純比較はできない。

・ただし、その前提に立ったとしても、利用率は大きく伸びている。(電子リソース全体で3倍に増えた館、自宅で使える電子リソースのページを新設したところ4000アクセスに上った館の例あり。)

 

図書館により予算規模や選書体制、導入している業務システム・リンクリゾルバ・学外からの認証システムなどがさまざまなため、課題解決に直接つなげることは難しい面もありましたが、お互いに情報を得て、ヒントを持ち帰ることができる場となりました。