4月例会「オンライン授業と著作権」開催報告

2021年4月24日に例会「オンライン授業と著作権」をオンライン形式で開催しました。

教育機関での授業(とその過程)のための著作物の利用は、2018年5月の著作権法改正、改正著作権法第35条による2020年4月からの「授業目的公衆送信補償金制度」スタートを受けて大きく幅が広がりました。また、授業目的公衆送信補償金制度の補償金は、初年度は新型コロナウイルス感染拡大にともなう特別措置として無償となりましたが、2021年4月からは認定された補償金額(大学は学生一人あたり720円)のもとでの本格運用が始まっています。

 そこで、今回の例会は、コロナ禍により多くの大学で授業形式がオンラインを主軸とすることが余儀なくされている中、授業のための資料利用として認められる範囲について理解を深めるとともに、大学教員の方にオンライン授業の実施経験をお聞きしながら、図書館ができるサポートについて考える機会とすることを目的としました。

当日は、和知剛氏(郡山女子大学)と川﨑千加氏(大阪女学院大学大阪女学院短期大学)のお二人からレクチャーとご発表をいただいた後、質疑応答や情報交換を行いました。

この記事では、「授業目的公衆送信補償金制度」は「補償金制度」、「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」は「運用指針」と略します。また、「授業」は「授業の過程」も含意します。

○和知剛氏(郡山女子大学)「平成30年著作権法改正第35条の運用について」

著作権法のおさらい、補償金制度の概要説明、運用指針の解説をしていただきました。「何ができるようになったのか」というだけでなく「何でもできるようになったわけではない」という視点をもって、教員などから特に問い合わせがありそうなことについての可否にもポイントを置いてお話しいただきました。

 紹介していただいた主な資料:

  • 文化庁「授業の過程における利用行為と授業目的公衆送信補償金制度(著作権法第35条))の取扱いについて」 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/92746401_01.pdf
    • 表中、「補償金の要否」が「補償金(35条2項)となっていることが、平成30年の法改正により可能となった。
  • 一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 (略称:SARTRAS(サートラス))https://sartras.or.jp/
  • 改正著作権法第35条運用指針 https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/unyoshishin_20201221.pdf
    • 2020年12月公開
    • 「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」によるまとめ
    • 定期的に見直される予定なので、常に最新のものを参照のこと
    • 「④授業」(p.7)、「⑦必要と認められる限度」(p.8)、「⑨著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(p.9)などについて、具体的な例示を添えて解説されている
    • 高等教育における運用について、具体的なことはp.14以降を参照。
○川﨑千加氏(大阪女学院大学大阪女学院短期大学)「オンライン授業の経験:大阪女学院における図書館との協働を中心に」

2020年度に2つの大学でオンライン授業を担当されたご経験をお話しいただきました。中でも、大阪女学院大学大阪女学院短期大学における初年次必修の情報リテラシー科目「情報の理解と活用」・「研究調査法」と、その学修支援のために大阪女学院大学図書館の司書と協働して実施された「デジタルレファレンスオンライン」の事例について、詳しくご報告がありました。

半期を通して各自選んだテーマのもとに資料・情報を収集・整理して小論文を仕上げる、という授業のために、資料の郵送貸出や図書館の部分開館に加え、この科目に特化した個別学修支援をデジタル技術を活かして開始、従来の対面支援も並行して行われた、という興味深い内容でした。

本事例の詳細は、『大阪女学院大学紀要』で報告されています*1ので、関心のある方はぜひお読みください。

コロナ禍により学生の図書館利用がままならない状況となる中、遠隔レファレンスを始めた大学図書館は多いと想像されますが、より一歩踏み込んだ実践例を伺うことができました。図書館司書4名が2人一組になって実施され、業務的な負荷は大きかったとのことですが、開学時から継続して開講されている科目であるということに加え、従来から図書館司書がこの科目の学修支援に深く関わっていたことで担当教員との協働体制・信頼関係が構築されていたことなどが土台となって成立したことがよくわかるお話でした。 

○質疑応答、情報交換

活発に質問や情報が寄せられました。このブログでは、一部をご紹介します。

  • 補償金制度の利用申請は大学単位で行う。申請範囲は、授業単位のケースもある。
  • 補償金の支払いに必要な経費について、2021年度は国の予算から、国立大学では運営費交付金、私立大学では私学助成金による措置が受けられる*2
  • 大学によっては、補償金制度への申請状況が担当部署から図書館に共有されていない可能性もある。
  • 授業目的での映像資料(著作権法では「映画の著作物」)の公衆送信は可能だが、授業のために必要と認められる限度を超えないよう、必要最小限の一部分にとどめる点に特に注意が必要(例えば授業時間のほとんどを映画の上映に充てる、などは論外)。
  • 著作権制度について、教員向けの説明動画を作成してオンライン配信している大学もある。
  • オンライン授業における課題の出し方や指導の仕方の変化としては、図書館へ行かないとできない課題をやめたこと、メールやZoom面談による個別のフォローを実施したことが挙げられる。また、指導していて、学生の学習習慣の差が強く感じられた。
 ○まとめ

参加者からの質問などからは、資料を整備・提供する立場にある図書館員には、オンライン授業で資料を利用できる範囲について教員などから問い合わせが寄せられることが多い様子が窺われました。

その対応として、改正著作権法第35条と補償金制度をよく理解しておくこと、図書館が所属機関の申請範囲について確認しておくことが必要だと再認識できました。特に、著作権者の利益を不当に害することの無いよう慎重な運用が求められている点には留意が必要です。

また、形式が対面であれオンラインであれ、授業に対する図書館員の関わりとして、資料提供や資料の探索支援にとどまらない学修支援の可能性について示唆を受けることのできる例会でした。

和知先生、川﨑先生、参加いただいた皆様、ありがとうございました。

○関連リンク(再掲含む)

*1:小松泰信・川﨑千加・高橋りさ・森上豊子 (2021)「情報リテラシー教育におけるエンベディッドライブラリアン:「デジタルレファレンスオンライン」による学修支援の試み」『大阪女学院大学紀要』(17), 55-72. https://ci.nii.ac.jp/naid/120007008984

*2:公立大学については、地方財政措置(地方交付税措置)がされています。総務省報道資料(2021年1月22日)「令和3年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項等」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei02_02000278.html